餃子に何をつけて食べるか。
これは非常に奥深いテーマです。世の中でもっともメジャーなのは「酢+醤油+ラー油」をブレンドしたものですが、最近は「酢こしょう」の認知度もかなり高くなっています。
また、みそだれ、ごまだれといった調味料もアリですし、とにかく「餃子のつけだれ」には無限の可能性があると言っても過言ではありません。
…となると、気になるのが「もっとも相性がいいものは何なのだろう?」ということ。
この疑問について、実は一つの回答が出ていることはご存知でしょうか。
それが、ミツカンの「味ぽん」です。
「味ぽん」を知らないという人はいないでしょう。言わずと知れた、鍋物などによく使われる調味料です。
鍋以外にもさまざまな用途があり、餃子もその一つ。実際にラベルを見ても「ぎょうざ」の文字があります。
実は2022年、ミツカンは「餃子に合う調味料」を科学的に調査する実験を行っています。
(参考資料:餃子と相性の良いつけだれをAIで分析!)
それによると、もっとも高得点を獲得したのが「味ぽん」なのだとか…!
日々是餃子編集部としては、この実験についてぜひとも詳しく知りたいところ。そこで、ミツカンの東京ヘッドオフィスにお邪魔して「気になるポイント」をあれこれ聞いてみることにしました!
取材に協力していただいたのは、株式会社Mizkan・マーケティング本部の佐藤夢紡(むつみ)さんです。
実験の背景
ーー本日は取材にご協力いただき誠にありがとうございます。さっそくですが、なぜミツカンさんが「餃子に合う調味料」を調査することになったのでしょうか。背景を教えていただけますか?
佐藤さん:もともと「味ぽん」というのは、ラベルにも書いてあるように「餃子に合う」ということは我々は提唱してたのですけれど、第三者から認めてもらうにはまだまだ認知が足りていない状況だったのですね。
一方で、「好きな餃子のたれ」について弊社がアンケートを行うと、5人に1人は「味ぽん」が好きと回答しているデータもあるんです。
そういう根強いファンがいる一方で、我々がまだPRできてないというところもある。そこで「「味ぽん」が他のつけだれよりもおいしい」というのを定量的に調査してアピールしたいというのが実施した背景になります。
ーー調味料の相性というあいまいなものを定量的に測定するというのはとても難しいと思いますが、どういったことを行ったのでしょうか?
佐藤さん:慶応義塾大学が、味覚センサー「レオ」というものを開発しまして。先方の機械なので詳しいことは解説しかねるのですが、ヒトの舌が感じる甘味・旨味・塩味・酸味・苦味の5味で分析するというシステムなんですね。
そこで「ヒトの味の感じ方を定量化する」というのが、今回やったことです。
ーーなるほど…。でも、センサーによって測定した味が「おいしいかどうか?」についてはどうやって判断するのですか?
佐藤さん:おいしさの軸というものがあるんです。たとえば塩味だったら3~3.5の間に入っていればヒトはおいしく感じる、とかですね。慶應義塾大学の味覚センサーは、そういったことをAIに学習させているそうです。
ーー人間がおいしく感じるかどうかまで、AIが判断できる時代なのですね…。そしてさらに料理と調味料の相性まで判断してくれる、と。
佐藤さん:そうです。それぞれを定量で分析して、そこを掛け合わせるとどうなのかについてもAIの中でできるそうです。そこで、餃子とさまざまなつけだれで分析して、掛け合わせたときにどうなのかという調査を行いました。
ーー餃子好きにとっての永遠のテーマに科学が切り込んだというわけですね(笑)。ちなみに、「味ぽん」以外にはどんな調味料を用意したのですか?
佐藤さん:おおよそ10サンプルくらいは用意しました。定番の「酢醤油ラー油」はもちろんですが、それをさらに分解して「酢醤油だけ」といったパターンも用意して、トータルで10パターンくらいです。
◆餃子との相性度ランキング
相性度(100点満点) | ||
1位 | 味ぽん | 98.2点 |
2位 | 酢醤油ラー油 | 97.6点 |
3位 | 酢こしょう | 97.2点 |
4位 | 醤油 | 93.5点 |
5位 | 酢醤油 | 92.7点 |
ーー実験する前は「味ぽん」が1位になることはわからないわけですよね?結果が見えない中でこういった実験をする怖さなどはなかったのでしょうか?
佐藤さん:確かに、「味ぽん」が1位になるという確証はありませんでした。先ほど、「5人に1人は「味ぽん」が好きと回答した」という話をしましたが、これがラー油だと2人に1人、酢醤油だと3人に1人が好きだと答えているんです。
そんな背景があるので、決して「味ぽん」が1位になるという確証はなかったのですが、弊社としてはきちんとお客様に届ける情報を調べなければと覚悟して臨みました。
ーーなんと、そのような覚悟があっての実験だったのですね…!
「味ぽん」が餃子に合う理由とは?
ーーなぜAIは、「味ぽん」が「餃子に合う」と判断したのでしょうか。その理由を教えていただけますか?
佐藤さん:「味ぽん」という商品は、主に塩味と酸味と旨味で構成されている商品でして。それらのバランスがいいというのは数値からも出ているんですね。
酢醤油とかだと、酸味が強いとか、塩味がとがっていたりということがあるんですけども、「味ぽん」の場合はどれもが3~3.5の間になっていて、それがおいしいと感じるわけです。
甘 | 塩 | 酸 | 苦 | 旨 | コク | 相性度 | |
餃子×味ぽん | 1.95 | 3.32 | 3.25 | 1.11 | 3.38 | 6.17 | 98.2 |
餃子×酢醬油ラー油 | 2.03 | 3.28 | 3.11 | 1.09 | 3.36 | 6.09 | 97.6 |
餃子×酢こしょう | 1.93 | 3.11 | 3.15 | 1.09 | 3.24 | 5.92 | 97.2 |
餃子×醬油 | 1.82 | 3.54 | 1.56 | 1.14 | 3.31 | 5.53 | 93.5 |
餃子×酢醤油 | 1.89 | 3.43 | 3.4 | 1.08 | 3.18 | 6.18 | 92.7 |
ーーさまざまな味がバランスしているところがポイントということですね。
佐藤さん:そうですね。お召し上がりいただくとわかると思うのですが、醤油感も他のぽん酢醤油などと比べると塩カドが少ないと思います。実はこれは「味ぽん」専用の醤油を使ったりしているんですが、そういった技術的なこだわりもあるのかなと思いますね。
ーーちなみに、実験に使った餃子ってどういうタイプだったのですか?具体的な商品名までは出せないと思いますが、ざっくりとでも教えていただけると…。
佐藤さん:スーパーで普通に市販されている冷凍餃子を使用させてもらいました。
ーーなるほど。ということは、おそらく日本で一番売れている有名なやつかなぁという想像ができますね(笑)。ありがとうございます。では、冷凍餃子ではない手作り餃子と「味ぽ」んとの相性はどうなのでしょうか?
佐藤さん:手作り餃子にもおすすめです。最近の冷凍餃子は、何もつけなくても食べられるくらい味がついているものも多いので、そういったものよりは、キャベツとか白菜とかがたっぷり入っているような、薄味のものの方がよりおすすめかなと思います。
ーー確かに、最近の冷凍餃子はたれなしでも食べられるくらい味がついています。薄味が好きな人には、手作り餃子×「味ぽん」という組み合わせがおすすめかもしれませんね。
「味ぽん」と「ぽん酢」の可能性
ーーせっかくの機会ですから、そもそも「味ぽん」とはどんな調味料なのか、あらためて知っておきたいと思います。この調味料が誕生した背景や歴史などを教えていただけますか。
佐藤さん:「味ぽん」は1964年に誕生し、現在(2023年)59歳になったロングセラー商品です。
弊社の7代目社長が、福岡で食べた水炊き鍋が印象に残り、そこのつけだれを開発したいという思いで2年ほどかけて開発した商品だと聞いております。
もともとは鍋物に使われる商品として生まれたものですが、その後に餃子、サラダ、冷ややっこなどにも幅広く使われるようになったという経緯があります。
ーー餃子のたれとして使われるようになったのはいつごろなのでしょうか?
佐藤さん:我々の文献ですと、1970年代と言われています。もともと弊社で提案してなかった食べ方でした。
基本的に鍋物は秋冬しかやらないので、じゃあ春夏はどうやって使い切るのか、どうやって売るのかというのが課題だったのですね。
では主婦の方はどうやって使うんだろうと調べたら、主婦の方は餃子にかけて使っているというのを発見しまして。そこから我々も「それはいいね」と、メニュー提案として頂戴させていただいたという背景のようです。
ーーなるほど。メーカーから提案したものではなく、一般の家庭から生まれた食べ方だったのですね。
佐藤さん:そうですね。おろし焼肉や焼き魚なども「味ぽん」のラベルに記載していますが、これらの食べ方もメーカー主導ではなく、一般の食卓で生まれたものです。
ーー聞くところによると、「味ぽん」という商品名の意味は「味つけぽん酢」なのですよね? つまり「味ぽん」よりも前に「ぽん酢」という商品があった、と。
佐藤さん:そうなんです。「ぽん酢」は1960年の発売なので、「味ぽん」より4つ年上なんですね。
「味ぽん」は、ベースがかんきつ果汁・お酢・醤油と、少し旨味の入った調味料なのですが、「ぽん酢」の場合は「味ぽん」から醤油と旨味を抜いた、基本的にかんきつ果汁とお酢でできた調味料です。
ここに醤油をご自身で混ぜて、それをお鍋のつけだれするという楽しまれ方をされていたんですが、1964年に「味ぽん」が発売されてからは、だんだんと消費量が逆転してきたという経緯があります。
ーー確かに現在では、「味ぽん」と比べると「ぽん酢」はマイナーな存在になっているかもしれませんね。ただ餃子好きとしては一つアイデアがありまして。
先ほども話題に出たとおり、最近の冷凍餃子は何もつけなくても食べられるように味がついているものが多くあります。そういった餃子には、「ぽん酢」が合うのではないでしょうか?
薄味が好きな人は、塩味の入っていない「ぽん酢」だけの方が、さっぱりと食べられるような気がします。
佐藤さん:ぜひそういった食べ方も訴求していきたいなと思ってまして。「ぽん酢」は、かんきつ果汁とお酢でできた商品ですのでスッキリとした味を楽しめますし、おっしゃるとおり味の濃い冷凍餃子や、あとはフライとかにも合うんですよ。
揚げ物、油っぽいものをさっぱりさせるには向いている商品なので、ありだと思いますね。
ーー「味ぽん」と「ぽん酢」は、餃子好きにとってはどちらも要チェックの調味料と言えそうですね。
佐藤さん:そうですね。餃子と「味ぽん」の組み合わせについては、アンケート調査で「5人に1人が好き」という結果が出ていますが、まだやっていない人もけっこういると思うんですね。
「味ぽん」は油を使ったメニューとの相性がすごくいいので、餃子好きな皆様はぜひ召し上がってみてください。
ーー僕たちも、あらためて餃子と「味ぽん」の相性について、じっくりと味わってみたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
取材後記
インタビューを受けて、日々是餃子メンバーは「餃子×味ぽん」と「餃子×ぽん酢」の組み合わせについて、試食会を開催しました。
まずは定番の「味ぽん」から。インタビューで解説していただいたとおり、確かに「味のバランス」が印象的です。特にかんきつ果汁の香りがいいですね。酢醤油もいいのですが、より餃子の油っぽさをさっぱりさせてくれる気がします。
そして、よりさっぱり味が好きな人におすすめなのが「ぽん酢」です。最近の冷凍餃子は何もつけなくても食べられるようにしっかりめに味がついているものが多いので、「ぽん酢」だけでさっぱりと食べるのも大いにあり。
ちなみに最近では、お酒を「ぽん酢」と炭酸で割った「ぽん酢サワー」という飲み方も流行っているとか。今回は焼酎で割って飲んでみました。
「ぽん酢サワー」はすっきりさっぱりとした飲み口が特徴で、甘くないのでこれまた餃子との相性も抜群でした。
「ぽん酢」は、餃子のつけだれにも、お酒の割り材にもなるという万能選手。「味ぽん」とともに、「ぽん酢」も活用していきたくなりました。